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立山 芳輝 | くすの木自然館

憩いの海岸を地域に取り戻すまで

錦江湾奥最大の重富干潟を有する姶良市の重富海水浴場。古くから残る松林に囲まれ、雄大な桜島と新燃岳を一度に眺めることができるビュースポットだ。そんな風光明媚な景色が一時は失われつつあったことをご存知だろうか。人も寄りつかなくなるほど荒れていたこの海岸を再生へと導いたのが、環境教育を手掛けるNPO法人『くすの木自然館』だ。理事長の立山芳輝さんは、10年前の海岸の様子を鮮明に記憶している。「駐車場には不法投棄の車両がいっぱいあって、松林もゴミだらけで。地元の人にも“あの海岸は汚い”といわれていました。」試しに海辺の生物調査を行ってみると、その数は年々減少していた。「1、2年の変化なら自然のサイクルだけれど、ずっと下がり続けていたのでおかしいなと。海岸の生き物が減るということは、水を浄化する能力も落ちるということです。そうなると海は汚れる一方なので、くい止められるなら、今くい止めたい。難しいのなら、せめてデータを残しておきたいと思ったんです。」現在も続いている調査と並行し、立山さんが始めたのがクリーンアップ。NPOスタッフとボランティアで海岸のゴミをいったんゼロにしてから、毎日ゴミ拾いの記録をとった。集計したデータを分析すると、お昼時のゴミが多いと分かった。そこで30分おきに海岸を回り、ゴミを拾い、ほうきの目を付けた。地道な努力の甲斐あって、ゴミは激減。目に見えてキレイになると海岸を訪れる人も少しずつ増えてきた。そんな流れを受けて設立したのが“重富干潟小さな博物館”と“Café Lactea Lactea(カフェ ラクテア ラクテア)”。情報発信と交流のスペースであり、活動の拠点にもなっている。

大人たちの姿が海岸に戻ると、自然と子どもたちもやって来る。ある日、いつも水槽で生き物を見ていた小学生が自らゴミ拾いに参加し始めた。レジ袋が海に流れると、イルカがそれを食べ、死んでしまうかもしれないと、立山さんに教わったからだ。片道40分の距離を毎日走ってゴミ拾いに通ってくる子どももいた。多くの子どもたちが手伝ってくれるようになると、大人たちも主体的に動き始めた。こうして現在では年に数回、地元の自治会と連携した大規模なクリーンアップを展開している。「自然環境を後世にいい状態で残すためには、いろいろな人が関わらなければならない。その仕組みを戦略的に作っていくのが、私たちの役目だと思っているんです。」続けるためには、評価される場も必要だ。だからこそ積極的にコミュニケーションをはかる。人々と接する中で、新たなアイデアも生まれてくる。以前からクリーンアップで集まる松葉がもったいないとの声があった。そこでその松葉を使って暖を取り、初日の出を見る会を企画。3年目を迎えた今年は100人ほどの住民が集まった。当日は手作りのぜんざいを振る舞ったという立山さん。地域にもすっかり溶け込んでいる。

消費者とお店をつなぐ海辺のマルシェ

環境教育や調査はもちろん、地域づくりにも力を注いでいる『くすの木自然館』。2010年11月から続けている「Umibe de marche」もその一貫だ。フランス語で“市場”を意味する“マルシェ”。地域で採れた新鮮な野菜やこだわりの食品、おしゃれな雑貨などが海辺のタープに並べられる。「Umibe de marcheには“消費者とお店をつなぐ”というコンセプトがあります。イベントでただ買い物をするだけでなく、消費者がお店のこだわりを知り、美味しかったから今度お店に買いに行こうという仕組みを作っていきたいんです。」魅力的な商品ばかりを集めたイベントは、回を重ねるごとに地元にも浸透してきた。「私たちはここでただの朝市ではなく、おしゃれなマルシェを作りたいと思っているんです。ちょっとおしゃれに、こだわったものを提供して。将来的には海岸で錦江湾を眺めながら、ゆっくりとお茶を楽しめる雰囲気を作りたい。その導入として、おしゃれで落ち着ける場を演出するというコンセプトがあるんです。」ここでひとつ、微笑ましいエピソードを紹介しよう。近所に住むおじいさんをマルシェに誘った立山さん。当日になり、なかなか姿が見えないと心配していると、ひげを剃り、スーツを着て、おしゃれをしたおじいさんが現れた。一度は普段通りのTシャツ姿で会場を訪れたものの、雰囲気を見て、自宅に戻り、着替えてきたという。このように地域の人々にも、小さな変化をもたらしている「Umibe de marche」。

恵まれた環境を未来へ引き継ぐために

海も、山も、川も、里もある姶良は、子育てにも最適な環境だと語る立山さん。仕事場としても、生活エリアとしても、とても質が高いと感じているという。恵まれた環境をいい状態で、後世に残したい。その想いから『くすの木自然館』では地域に根ざしたエコツーリズムも展開している。「環境教育は、仕組みを伝えるだけでは、意味を持たないんです。五感で体験して、またここに来たいと思えれば、環境も残したくなる。行動につながる原風景、原体験を作ることが大切なんです。」その取り組みの成功事例といえるのが重富海岸だ。クリーンアップやマルシェを通じ、原体験を得た人が、愛着を持って海岸に集まっている。

「最近、ある方が観光客との会話の中で“うちの”海岸と言っていたんです。私たちはそのひとことが欲しくてやってきた。小さなひとことですが、成果のステップであり、とてもうれしかったですね。」10年前はゴミだらけだった海辺に、松ぼっくりの回廊ができた。この街に育つ子どもたちは、そんな原体験を一生持ち続けるのだ。姶良市にはまだまだ多くの資源が眠っていると感じている立山さん。「個人的な意見を言えば、あえてどこかに就職しなくても、自分が好きな仕事を自分で生み出せばいいと思っています。」自然との距離感を見失わなければ、きっと充実した暮らしが送れるはずだ。豊かな資源に恵まれたこの街は、未知の可能性に溢れている。

立山 芳輝 | くすの木自然館

文:里山 真紀
アートディレクション:冨永 功太郎
デザイン:篠原 拓朗
撮影:高比良 有城
企画:丸野 卓・久保 雄太

 

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